映像ラヂオ

ラヂオの独り言  
不要不急のネタ その⑥ 「ひばりさんから教えてもらったこと。」

その夜は銀座でタクシーを拾うのが大変だった。
世の中がバブっていた真っ最中。
夜中の2時でもタクシーが止まってくれない。

会食後のバーでのひとときを過ごし
タクシーでの移動となった。

ひばりさんはレコード会社の若い営業マンと部長と
中央通りから3ブロック入った並木通りに出て
タクシーを待つ事15分。
ようやく1台のタクシーがハザードランプを点滅させて
3人の前に止まった。

運転手がドアを開けると
部長がドアを持って
「さ、どうぞひばりさん」と言ったか
言わなかったかの一瞬に
若い営業マンは「失礼します。」と
一言添えてから部長によって開かれたドアから
後席に滑り込んだ。

部長の顔は
唖然の黄金玉らっきょうであった。
「おまえ何考えてんだ!ひばりさんに失礼だろ!」
という言葉が彼の胸部を引き裂いて
飛び出そうとしたその時

「どうもありがとう。」と
部長に軽く会釈してひばりさんが後部席に座った。

部長はまるでシンデレラが乗っている馬車の
扉を閉める召使いのように音もなく丁寧にドアを締めて
助手席に着座した。

彼の髪の毛は怒りの発熱により
70年代の陽水みたいになっていた。

タクシーが並木通りを滑り出した。

ひばりさんは若手営業マンに言った。
「あたな若いのによくマナーをわきまえているわね。」

彼は少し照れて緊張しながらひばりさんに返した。
「はい、高校生の時に父から教えてもらいました。」

***   ***   ***

これはその昔文藝春秋で読んだ記事だった。

タクシーに乗る時目上の人やお客様、上司より
若い者、部下、ホストが先に乗車して
後席の奥まで滑り込む。

それからお客様や上司などを歩道に近いところに
座らせると降りる時に後席のベンチシートを
よっこいしょと滑る事無く降車できる。

これこそ思いやりであり、良きマナー。

ひばりさんと同じようにタクシーに乗った
多くの人達は「どうぞ、どうぞ」と
ひばりさんが先に乗車するようにすすめた。

彼らに他意はない。
だからひばりさんもニコッと微笑んで
「どうもありがとう。」って会釈してから
クラウンの長いベンチシートの奥まで
よいしょっと移動した。

思いやりってこういう事なのかなと思った。

それからしばらくして
テレビ東京のスタジオで
赤いロングドレスを着て
「川の流れのように」を歌ったのを
最後に、ひばりさんは旅立たれた。

美空ひばりさんが旅立ってから数日後に
あのテレビ東京の歌番組が
ひばりさんの最後のステージだったと
知った時思わず泣いた。
なんと凛とした佇まいで熱唱されたことか。
ご病気で大変体調が芳しくなかったにもかかわらず
歌っている間ずっとスマイルを絶やさず
最後の歌詞「青いせせらぎを、聞きながら♪」
そして深くおじぎをされて
スタジオのライトが落とされた。

https://youtu.be/c1FCDVTYVTQ?si=VawFi...

(これはフジテレビです。)

***   ***   ***

ふとこんな事を思い出して「川の流れのように」を
ソロ・ギターで弾けるように練習を始めた。
弾いてみるとなんて美しい曲なんだろう。
年末までに完成したい。

ていうか、映像化してみようかなあ・・・

(写真のタクシーはクラウンではなくセドリック。)

2 years ago (edited) | [YT] | 47