セリナの場合 「お腹空いた……」 近くのテーブルに置いてあるお菓子を取りに行こうと席を立ち上がる。数歩歩くと、床に落ちていた紙に足を滑らせて転んでしまい、床に背中を強く打ち付けてしまったが特に気にせず立ち上がり、お菓子を食べた。 セリナ「大丈夫ですか?先生!」 セリナ「背中を打ってしまったんですね。痛みはありますか?問題なく呼吸は出来ますか?」 「大丈夫だよ。痛みには慣れてるから。」 セリナ「またそうやって無理をしようと……。とにかく、服を脱いで打った箇所を見せてもらえますか?ケガをしているかもしれませんし、打った周辺の肌の色が変わっていたら骨折している、という可能性もありますから。」 「……でも、あんまり体を見られたくないというか……」 セリナ「恥ずかしがらなくて大丈夫ですよ。これは治療の一環ですから。」 半ば強引に先生のシャツを脱がす。先生は裸を見られるのが恥ずかしいから服を脱ぐのを拒んだのだと思っていた。 セリナ「……えっ……!?」 しかしセリナの目に映ったのは無数の痣、古傷、火傷の跡。それはまさしく人体に刻まれた地獄絵図だった。 セリナ「な、何ですかこの傷跡……いつ、誰に……?」 「……昔、親に虐待されてて……その時の痛みに比べれば大体の痛みは大したことないからね。それでさっき、痛みには慣れてるって言ったんだ。」 セリナ(先生に、そんな過去が……) セリナは自分の軽率な行動を後悔し、強い罪悪感を抱いた。先生が見られたくなかったのは裸なんかではなく、この凄惨な傷跡であったということを理解した。 セリナ「ごめんなさい、先生……。私、先生のこと何も知らないで、先生の心を傷つけるようなことを……。」 「気にしないで。知らなかったんだから仕方ないし、セリナは私を助けようとしてくれてたんだから。セリナは悪くないよ。」 先生が頭を撫でて慰めてくれる。本当に辛いのは先生なのに。先生の心を救いたいと強く願った。 セリナ「先生、その傷はまだ痛みますか?」 「かなり昔の傷だからね。痛みはもう感じないよ。」 セリナ「では、昔の嫌な記憶がフラッシュバックしてしまうことは?」 「……たまにある。辛くて、悔しくて、感情がぐちゃぐちゃになるときがある。」 セリナ「先生……」 セリナが先生を優しく、力強く抱擁する。 セリナ「……辛かったですね……。そういった心の傷は簡単には治せないかもしれません。せめて、ほんの少しだけでも先生の辛い気持ちを和らげたり、心を楽にすることが出来たらいいんですけど……。」 「セリナ……」 先生は思わずぎこちない動作でセリナの背中に手を回した。人生で初めて感じた温もり。愛情。安堵。とっくに枯れ果てたと思っていた涙が湧き出る泉のように溢れ出る。先生は口に出すことを許されなかった弱音を、ずっと隠して閉じ込めていた本音を震えた声で絞り出した。 「ずっと……ずっと、辛かった……。」 セリナ「先生。もう苦しまなくていいんですよ。先生の辛い気持ち、私に分けてください。どんな小さな痛みも我慢しないでください。セリナは先生のことを愛していますよ。」 セリナが慈愛に満ちた声で先生に語りかけると、そこに優しくて頼りになる大人の姿はなく、母親からの愛情を一心に求めるか弱い子供のように先生はむせび泣いた。セリナは先生が泣き止むまで静かにずっと抱きしめてくれた。 おわり
1 month ago
| 8
ミカの場合 私は今日シャーレへと向かう。 理由は単純だ。先生と遊ぶため。 もちろんティーパーティーの仕事も忙しいが、今日は珍しく暇になった。 執務室のドアを開ける。 ミカ「先生〜遊びに来たよ〜!」 先生「いらっしゃい、ミカ。」 先生「とりあえずお茶飲んでく?」 ミカ「うん!飲む飲む!」 鼻歌を歌いながら待っていると、すぐお茶が出てきた。 先生「どうぞ、ミカ。」 ミカ「ありがとー!」 ゴクゴク 先生「…今日は珍しいね。ティーパーティーの仕事は?」 ミカ「実は今日空きができたんだ!それでここに来たんだ!」 先生「そうなんだ。私もミカが来てくれて嬉しいよ。」 ミカ「ねぇ先生」 先生「なんだい?」 ミカ「前々から思ってたんだけどさ、」 ミカ「先生のその顔の傷は何?」 先生「あぁ、これはその…」 先生「…ついにミカにも話さなければいけない時が来たか。」 先生「実はこれ、母さんにつけられたんだ。」 ミカ「……え?」 どういう事?先生の母親が?なんで? そんな思考ばかりが頭の中を駆け巡る。 先生「母さんは昔からよく私に"医者になれ"って言ってね…」 先生「成績が少しでも悪くなると殴ったり蹴ったりしてきて……」 ミカ「先生…、」 ミカ「どうしてそれを早く言わなかったの…?」 先生「ちょっと恥ずかしくてね…。」 その時、先生の体にミカが抱きついてきた。 ミカ「早く言ってよ!」 ミカ「言ってくれれば、私は何か先生に声を掛けられたかもしれないのに…」 ミカ「なんで先生は何でもかんでも自分1人で解決しようとするの?」 ミカ「たまには私も頼ってよ…!」 ミカ「寂しいよ…先生…」 次々と言葉が出てきてしまう。 まるで、グラスの中に溜まった水が溢れ出てくるように。 ミカ「う…あ…あ…」 ミカ「ぁぁぁああああああああぁぁぁあぁぁぁぁぁ!!!!!!」 ミカが私の服の上で泣き始めた。 私の白いコートを濡らしながら、ミカの背中をさする。 先生「ごめんね…ミカ。気付いてあげられなくて。」 ミカ「先生…これからは…私も頼ってよ…」 先生「分かってるよ、ミカ。」 先生「…大好きだよ。」 そう、ボソッと呟く。 先生「あぁ、これはその、生徒としてっていう意味であって…!」 ミカ「先生、」 ミカ「私も、先生の事が好きって 言ったらどうする?」 先生「え?」 その後の返事は大体予測できた。 ミカ「"教師と生徒"じゃなくて、"1人の男性"として好きって思ってるよ。」 先生「でも、ごめんね、ミカ。」 先生「私は教師だから、生徒とそういう関係になるのは……」 やっぱり。 もう…こうなったら… チュッ 先生「!?ミカ…!?」 ミカ「先生、ここにいるのはただの男女2人。私は先生のことが好き。先生は?」 先生「私は……」 先生「み…ミカの事…好きだよ。」 その時、ミカの中で何かが弾け飛ぶ音がした。 まるで、心の中の真っ黒な何かが。 ミカ「先生…!!!」 ミカ「よかった……よかった…!」 ミカ「これからずっと傍にいていいの…?」 先生「うん、いいよ。」 先生「ありがとう。ミカ。」 ミカ「それはこっちのセリフだよ!」 _ああ、こんな日常が続いていけばいいのにな。 死ぬまで、続いていけばいいな。 いや、終わらせない。 死んでも、私と貴方の愛は、変わらないのだから。 これからずっと、支えてあげるからね。 共に歩んでいこう。 今日はここからでいい。 明日はもっと、明明後日はさらにもっと。 前へ1歩ずつ、踏み出そう。 だって、前へ歩かなければ何も得られない。 これが私と先生の、青春の物語。 おわり
1 month ago
| 7
治療の為に脱がせた服のしたから現れる無数の古傷に青ざめるも先生の過去を聞き優しく、それでいて力強く抱擁するセリナ。 あると思います。
1 month ago
| 16
ネルパイセンは辛い状態の人には静かに隣に座って肩に手を当てるか背中をさすってあげながら話や事情を黙って聞いていてくれる、そんな風景が容易に想像できる、まさに姉御なんだ…
1 month ago (edited)
| 4
カスミ「ふむ、あれは先生と…外からの客か?」 てとてと。 男A「なぁ、ヨワ太。ヨワ太のくせに娘っ子どもに人気みてぇじゃん?」 男B「美人ばっかだしよ。ヨワ太のクセに生意気だぞー」 先生“あはは…皆よい子だから。教師として鼻が高いよ” カスミ(近づいてみたが、先生とは浅からぬ関係か?) 男A「よーし、今度、女の子どもを何人か連れて来いよ」 男B「いいね。なぁ、わかってるよな?」 どすっ! 先生“うっ…! えへへ…生徒たち次第かな…。けほっ…強制はできないし” 男A「は? ヨワ太が口答えしてんじゃねぇぞ!」 男B「そうだぞ! ヨワ太は言うこと聞いてりゃ良いんだ!」 カスミ(なかなかに『親密な』関係のようだな) 先生“えっと…その、なんとかしてみるよ、あはは…” 男A「おし、明後日このビジネスホテルでな。ダチも呼ぶから、最低5人は揃えとけ」 男B「若い娘と遊べるなんて、ヨワ太と『友達』で良かったよ」 すたすた。 先生“はぁ…どうしよう…” カスミ「行ったかな」 先生“っ?! カスミ、聞いてたのかい…?” カスミ「オフコ〜ス、生徒を売るかどうかの瀬戸際を──人生の岐路を、ね!」 先生“売ったりなんかしないさ…大事な生徒だもの” カスミ「ノープロブレーム、その点は先生を疑うに値しない」 ズイッ。 カスミ「しかして、どうするのかな? 先生の言を聞き入れるような連中には思えないが?」 先生“顔近い…。まぁ土下座でもして、好きなように殴らせておけば飽きちゃうよ…” カスミ「──それでは先生が苦しいんじゃないかな?」 先生“……生徒たちが傷つくことに比べたら大丈夫さ。もう、いつものことだから慣れちゃってるよ…” はぁ〜。 先生“カスミ?” カスミ(先生が良くても皆が……いや、私が大丈夫ではないんだぞ?) 先生“カスミは心配しなくても──” カスミ「──ハーハッハッ! 私に任せたまえ。乗りかかった船だ、宛もあることだしな!」 2日後。 カスミ(先生よ、どうするか、などというのは愚問だ。どうもしないさ) コンコン。 男B「はい。やっときたかヨワ太。待ちくたびれたよー」 カスミ「君らアメーバ以下の下等生物がヨワ太と呼ぶ親愛なる『友人』の代理で来た」 男A「は? 女は?」 男B「ヨワ太のクセに生意気なこと言いやがって…!」 ドーン! 男A「何だ?! おい、ガキ! 何しやがった?!」 男B「それ、映画とかで見る…起爆装置?!」 カスミ「ハーハッハッハッ! ──温泉開発をするだけのことさ!」 ジリリリリッ! カスミ(これで『彼女ら』に通報が行っただろう。ゲヘナの学区内で良かったよ) 男A「クソッ、爆発で非常ベルが!」 男B「逃げなきゃマズいよ!」 カスミ「さぁさぁ、地獄で釜茹でにされたくなければ逃げたまえ」 男A「トチ狂ってんのか、てめぇ!」 男B「うわーん! ママー!」 カスミ「こんなものゲヘナでは時候の挨拶みたいなものさ。急がなければママに二度と会えないぞ」 だだだっ! 男A「ひぃぃぃ!」 男B「煙が! 炎が!」 カスミ(さ、足止めは任せたぞ、メグ) ウーウーウー。 男A「はぁ、はぁ…出られた…」 男B「あれ…? 音の割にほとんど壊れてない?」 先生“カスミは何をしようとしてるの…?” 男A「おい、ヨワ太! これは何の真似だ?! わっ!」 男B「脅かしやがって! ただじゃおかないぞ! 何だ、離せ!」 ジタバタ。 メグ「ぶちょー! こっちは捕まえといたよ〜」 カスミ「うむ、ご苦労。我ながら見事な調整だ」 先生“最小限の被害に抑えたのはホメるけど…何もここまでしなくても…” メグ「えへへ〜、先生にホメられちゃった!」 カスミ「木っ端微塵にしてやりたい…というのが私の本音なのだがね(先生、優しさと甘さは違うぞ)」 ジタバタ。 先生“……” 男A「この、離しやがれデカチチ!」 男B「パパに言いつけてやるー!」 カスミ「ハーハッハッ! アメーバよりはまだ気概があるらしい。そこに免じて引導は渡さないでおいてやろう!」 メグ「デカ…?」 先生“私に差し出されても困るんだけど…” ドサッ、ドサッ。 男B「なぁ、ヨワ太…俺たち『友達』だよな…?」 男A「心の友だ。何もしないよな…?」 先生“いつになくしおらしいね…。友達、か…” カスミ「結局、自分より弱き者にしかイキれないアメーバどもなのさ。人間らしくて素晴らしいじゃないか。しかし、決断の時は近いぞ」 ざっざっざっ! メグ「風紀委員会一行のご到着〜。どうするの、ぶちょー?」 ヒナ「また貴女たちなの、カスミ?」 アコ「懲りないですね〜! 全く!」 イオリ「この規則違反者どm…アコちゃん、ドゥドゥ」 チナツ「ちょっと様相が違うみたいですね…」 カスミ「ソーリー、『合コン』のメンツを集めるダシにさせてもらった」 ???? カスミ「メグ、壁幕を」 メグ「は〜い!」 ヒナ「…全員待機! 先生の指揮を待つ」 カスミ「ハーハッハッハッ。察しが良くて助かるよ、空崎ヒナ」 ドクン、ドクン…。 先生“そっか、ここからはどっちを選んでも、生徒には見せられない姿だね…” 男A「何言ってんだよ、ヨワ太! さっさとこの頭おかしいガキメスを警察にでも突き出せ!」 男B「そうだぞ! 今なら許してやるからさ!」 先生“カスミは目的に真っ直ぐすぎるだけで、良い娘だよ?” 男A「クソッ、埒が明かねぇ!」 男B「覚悟しろ、このクソメス!」 ダッ。 カスミ「……」 どかっ! ばきっ! 先生“……” 男A「ヨ、ヨワ太…?」 男B「な、殴ったな…パパにも殴られたことないのに…!” 先生“人を殴るのって、痛いなぁ……” ぷらぷら。 カスミ「温泉開発、完了だ。……これ以上になく熱い、間欠泉だったよ」 メグ「あはは、部長も! じゃ、てっしゅ〜!」 ヒナ「被害状況の確認を残して、それ以外は撤収しなさい」 ザザザザッ。 先生“カスミ!” カスミ「フッ──」 先生“ありがとう” ──ハーハッハッハッハッ!
1 month ago
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アルの場合 19年。正確に言えば、19年と4ヶ月。 生まれた時から五月蝿いと怒鳴られ、褒めて欲しくてもしつこいと蹴られ、むしゃくしゃするからと兄から殴られ…とにかく、普通の家庭にある『愛』とは無縁の生活を送ってきた。 外なら痛いのも受けないと思っていた学校では、家の人たちに殴られた痣や付けられた切り傷が、周りの普通の人たちの奇怪な目を惹き付けた。 15にも満たない子供にとって、異端の者を見る目は厳しくなるのが当然なのだろう。唯一の逃げ場所だと思っていた教室では心ない言葉を吐かれ、無視をされ、物を隠され、摩耗していた私の内側にトドメを刺した。 とある学年の先生だけはずっと親身になってくれていたが、その先生も転勤で消えた。 どうして離れちゃったんだ、裏切り者、信じてたのに、と当時は誰にも怒られない外で泣きじゃくったものだ。 ある日、貧困で苦しんでいる子供たちの特番を扉の隙間から見ている時、私は悟った。 世の中には、こんなに苦しんでいる人達が何人もいる。 苦しそうで、悲しそうで、酷い顔をした人たちが、画面の向こうに存在している。 ──自分よりも、苦しそうだ。 だったら、自分はこの程度で折れてはいけないんじゃないか? もっと苦しんでいる人たちがこの世界にいるのに、こんなことで音を上げたら浮かばれないんじゃないのか? …その後の毎日は、少しだけ楽になった。 途方もないと思えた地獄に、『意味』を見いだせた。 反応せずに無になることで、画面の向こうの子たちのためになれているような気がした。 ──かくして私は。 何かが抜け落ちたまま、大人になった。 ─────────────────── 現在、キヴォトスのとある地区。 いつか遠くへ行った先生の真似事をしながら過ごしていた今日の晩に、不良らしき生徒のいざこざを見かける機会があった。 ”こらこら、こんな夜中に喧嘩だなんて縁起でもないよ。良かったら話聞くから、一旦その銃はしまってくれないかな?” 文言も話しかけるタイミングも計ったつもりなのだが、既に沸騰していた二人の頭を留める言葉ではなかったらしく、そのまま襲いかかってきたのだ。 銃は彼女のバリアがあるので何とかなったが、尚も煮え滾っていた二人は銃を投げ棄てたかと思えば、私を巻き込んでステゴロの大乱闘に持ち込んできた。 途中でシッテムの箱を落としてしまったことも災いし、夜に似合わず全身にその元気を貰うことになってしまった。 いつの間にか二人はどこかへ消え、夜道に大の字で一人取り残された私。 ビリビリに破けた服を見下ろしながらどうしようかと思っていると、コツ、コツ、と響く靴の音が近づいてくる。 「もう、肝心な時にコードが断線するなんて…え?そこにいるのは…」 ”あれ?アル?どうしたのこんな夜中に?” 「その声…先生!?こっちの台詞よ!?というよりどうしたのその怪我!何があったのよ!?」 分かりやすくあわあわと慌てる、紅色の髪を下ろした少女。私がそこで出会ったのは、陸八魔アルだった。 ”あはは…ちょっと揉め事があって、止めようとしたらこうなっちゃって…” 「怪我でこうもなるものなの!?見たところ撃たれてはなさそうだけど…とにかくウチに来て!そのまま帰せないわ!」 ”ええ、でもさすがに悪いよ…” 「そう思う必要なんてないわ、経営顧問を見捨てる社長なんていないもの。ほら、肩貸してあげるから!」 妙な手際で抱えあげ、私の歩幅に合わせて歩いてくれる彼女。道中で脚にあまり力が入らないことから、恐らく骨折しているのだろうと予想がついた。 歩いては引きずり、歩いては引きずりを繰り返して、ようやく事務所にたどり着く。 救急箱を取ってくるから絶対動かないで頂戴!と念を押しつつ、彼女は私をソファーに座らせると早歩きで別室へと消え、数秒もしないうちに白い箱を携えて戻ってきた。 「酷いわ…ここまで先生を殴るだなんて。痛かったら言ってちょうだい?」 ”ありがとうアル…手当までしてもらってごめんね” 「ふふ、謝るのはナシよ。その代わり、出世払いで返してもらうんだから!」 ”…アル、多分使い方間違ってると思うんだけど” 「えっ、そうなの!?…細かいことはいいのよ!貴方もアウトローの一員なら、いちいち気にしないこと!」 ”はいはい” 少しだけおぼつかない手つきで、しかし患部へ的確に処置をしていくアル。 医療従事者でもないのに心得があるんだ?と聞いてみたところ、ハルカがこうして怪我をして戻ってきては、アルとカヨコとでよく治療をしてあげているらしい。 なるほど納得だ。 謝り倒しながら治療されるハルカ、テキパキと治すカヨコと比較して少しおぼつかないアル、それを見てくふふと揶揄うムツキ。 アルの言葉だけでその情景が容易に想像ができるのも、便利屋というメンバーの良いところなのだろう。 「ふぅ…ひとまず上半身は大丈夫ね。次は足をやるから、少し両足を上げてくれるかしら?」 よし、という声とともにそう話しかける彼女。 試しに足を上げようとしてみるが…上がるのは腿だけで、膝から下は宙ぶらりんになってしまっていた。 やはり折れているか…救急箱に固定できるものが入っていればいいが、果たして。 ”ごめんアル…多分脚は折れてるみたいだ” 「えっ…ええっ!?一大事じゃない!!ちょっと待って、すぐにカヨコ課長たちも呼んで治療するから!ええっと、ええっと…」 ”あー…そこまで急がなくても…” 「添え木はどうしようかしら…ええっと…ひとまずこれでいいわよね!」 そこまで痛まないからゆっくりでも、という声は届かないまま、あっという間に連絡を済ませて太い柱のようなものを脚に当て始めた。 古い椅子の脚を取ってきたらしい。そりゃ太い。曲がる心配も無いので緊急用としては頼もしいが。 ”でもアル、さっき言おうと思ってたんだけど…そこまで急がなくたっていいんだよ?” 「何言ってるのよ。あのまま放置していたら、脚が曲がったままになってたかもしれないのよ?」 ”そりゃ大変だけどそっちじゃなくて…別にあんまり痛くないんだよね” 「えっ……?」 少し青ざめた表情で私を見る。 そんな彼女に、笑顔で私は告げる。 大丈夫なんだよと心配をかけないように。 気にしないでと重荷にならないように。 ”そんなに、痛みを感じない体だからさ” だって、どこかでもっと苦しんでいる子たちがいるから。
1 month ago
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ブルアカ反応集【ヒナ吸い愛好家】
「私はね、痛みを感じづらいんだ」先生が幼少期の虐待やいじめにより、痛みを感じづらくなっていることを知ったブルアカ生徒に対する反応集
コメントやSSが集まったら動画化します!
1 month ago | [YT] | 200