人生の教訓

【シニア恋愛】「普段は厳しい義母が、酒に酔った夜に見せた意外な一面」

俺の名前は、長谷川拓也。四十二歳。横浜の港を見下ろす古い洋館で、妻の沙織と、そして彼女の母、つまり義母の文子さんと静かに暮らしている。結婚して十五年、子供はいない。だが、この家の静寂は、穏やかなものではなく、まるで薄氷の上を歩くような、息の詰まる緊張感に満ちていた。その中心にいるのが、義母の文子さんだ。御年六十八歳。元々は、この家で貿易商を営んでいた厳格な父の、秘書として働いていた人だった。背筋は今もなお、若い頃のようにすっと伸び、その佇まいは一点の隙もない。しかし、俺に向けるその視線は、常に冷ややかで、まるで査定でもするかのように俺の一挙手一投足を値踏みしていた。
俺が食後に皿を洗えば、「水道代も考えずに、そんなに水を流さないでちょうだい」と静かに刺し、週末にソファで寛いでいれば、「もう少し、時間を有意義に使ったらどうなの」と皮肉が飛んでくる。だが不思議なことに、その刃のような厳しさに反発を覚えるどころか、俺はいつしか、文子さんという一人の女性を、強烈に意識せずにはいられなくなっていた。綺麗に撫でつけられた銀髪、薄く上品に引かれた口紅。そして何より、横浜の荒波のような人生を乗り越えてきた者だけが持つ、独特の憂いを帯びた色香。それは、化粧や若さで作られた美しさではなく、歳月という名の彫刻家が丹念に刻み込んだ、芸術品のような深みがあった。

2 months ago | [YT] | 0